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戦場に響く鈴の音
第25章 家族
「あの様子だと、鈴の腕前が上達した途端に燕か神国から一番良い琴を取り寄せると言いそうだ。」
この屋敷で鈴に一番甘い義父に呆れる。
「その代わり、離宮が炎上するかもしれませんね。」
義父の後ろ姿を見送った雪南が徐ろに立ち上がる。
「離宮か…。」
彩里は俺が屋敷へ戻った事を知ってる。
「離宮では…、つまらない噂が立ち始めております。」
雪南が嫌そうに話す。
「噂?」
「姫に同情した風真が姫を慰めているとか…。」
「直愛がか…。」
「あれも、生粋の御坊っちゃまですからね。」
「奥州の三男…、生まれは抜けぬと?」
「さあ、私は蒲江として生きた覚えがありませぬ故…、風真の心までは図りかねます。」
雪南がわざとらしく肩を竦めやがる。
「全く…、うちの女共は…。」
俺の仕事を増やす気かと気が立って来る。
「モテるという事は、それを受け入れる覚悟が必要なようで…。」
「お前の方がモテるだろうがっ!」
綺麗な顔立ちの雪南の方が昔から女ウケが良い。
「私は黒崎様のように器用な生活は出来ぬと申し上げたはずです。」
彩里を妻として娶り、鈴を妾にした俺の事をまだ根に持ってやがると苛立ちすら感じる。
「───して…、離宮へは?」
「明日にでも行くと伝えろ。」
「御意…。」
嫌味ったらしく雪南が恭しく頭を下げてから立ち去る。
俺は義父を追うように自分の部屋へ向かう。
「今日はこの位にしておきましょう。」
絖花の声がする。
「でも…。」
鈴はまだ続けたいと絖花を困らせる。
「主様がお帰りですよ。姫様なら、ちゃんと主様をお迎えせねば…。」
田舎街の花魁といえど城主に対する礼儀は叩き込まれている絖花が鈴を上手く宥める。