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戦場に響く鈴の音
第26章 軍議
「離宮には予備の小さな台所がありますの…、この冬の間は私達に不自由が無いようにと風真様が全てを整えて下さり、神路様の食事くらいなら、直ぐにでもご用意が出来ますわ。」
ご機嫌な彩里の言葉にゾッとする。
「余計な事を…。」
流石に直愛の好意は行き過ぎる。
主の許しなく台所を与えるとかあってはならない事だ。
「風真様は…、親切で…。」
「その親切に脚でも開いてやったのか?」
「そんな下品な事など絶対にありませぬっ!」
「ならば覚えておけ、黒崎の台所は全て蒲江のものだ。余計な事をして諍いになるような事を黒崎の妻が起こすな。」
直愛がやった事は越権行為だと彩里を叱る。
「私は…、ただ神路様の帰りを待っていただけなのに…。」
彩里が唇を噛み締める。
「黒崎の妻は誰だよ?」
今一度、彩里に問う。
「私が…。」
「ならば黒崎に従え…、お前の主は風真じゃねえよ。」
「わかりました…。」
今まで通りに俺が言った事だけを守れと彩里に命じる。
寝室への戸を開けて彩里が自分の着物を脱ぐ。
俺と彩里は黒崎の子を作るだけの夫婦だと徹底して割り切る。
「ねえ、神路様…、柑はどんな街ですの?」
俺に裸体を擦り寄せる彩里が問う。
「別に…、普通の街だ。」
お前には関係ないと答えれば
「春に連れてっては下さりませんか?」
と作り笑いをする彩里が俺の帯を解く。
「行かねえよ。」
「少しくらい…。」
「春には由へ行く。」
「由へ?」
「お前の弟に笹川を纏めさせる必要がある。」
俺の言葉を勘違いする彩里が嬉しそうに笑みを浮かべる。
「春には由へ…、当然、私もご一緒出来ますわね。」
由へ帰れると勝手にほざく彩里の言葉を無視する。