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戦場に響く鈴の音
第26章 軍議



あの虎に食われれば、俺はただの人殺しへ堕ちるのだろう。

虎を狩る為に、見えない双刃刀を振るい続ける。

タンタタン…タタン…タン…タン…。

踊る足がリズムを刻む。

これは鈴の音…。

毎日のように聴こえて来る鈴の音も俺の身体に染み付いてる。

俺を威嚇する虎と見つめ合い、双刃刀を構え直す。

どれだけの時間を虎と睨み合って来たかわからなくなる。

やがて虎が足を折り、踞って眠る。

鬼が眠りにつけば俺の尖った神経が治まり、首筋に感じていたチクチクとする嫌な痛みが薄れて来る。

息を整えて、落ち着きを取り戻す。


「神路…。」


泣きそうな鈴の声が聞こえる。


「もう…、朝か?」


とぼけて鈴に聞けば、駆け寄る鈴が俺にしがみつく。

大人の女になったと勝手な勘違いをしていたのは俺の方だ。

鈴はまだ保護者が居なくなれば、眠れない幼子へと戻る。


「心配…、したじゃないかっ!」


鈴が眠る床を抜け出して、離宮へ行ったのではないかと不安だったらしい。


「何を心配する必要がある?」


鈴を抱き上げて、聞いてやる。


「だって…。」

「お前は黒崎の姫だ。全ての奴らに必ず俺が認めさせてやる。だから鈴は堂々としてれば良い。」

「鈴は姫になれなくとも良いと…。」

「俺がそうしたいんだ。直に春が来る。お前の為に早く戦いたくてウズウズしやがるから毎日が落ち着かない。」

「無茶は…。」

「…しない。俺は誰にも負けねえから…。」


何を言っても無駄だと鈴が口を噤む。

日が昇るのを感じる。

道場の屋根に積もる雪が溶け、雨垂れの音を響かせる。

全ての音が聴こえ、全てが見える気がする。


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