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戦場に響く鈴の音
第26章 軍議
「春だ…、鈴…。俺について来るか?」
答えはわかってる。
「鈴は常に神路の尊と共にある。」
金色の瞳を輝かせる少女がゆっくりと俺に口付けをする。
焦るな…。
まだ始まったばかりだ。
ようやく長い冬が終わる。
俺もこの子も自由だ。
抱き上げる鈴の身体に顔を埋めて、自分に言い聞かせる。
「俺と…来い。」
お前は俺の尊が進む路を見届ける小姓だ。
鈴は黙ったまま頷き、俺の手を握る。
抱き上げた鈴を連れて屋敷へ戻れば、雪南が俺の前で跪く。
「離宮からの言伝が…。」
雪南の苦笑いだけで何が言いたいかわかる。
彩里に月の障が来た。
あれは春までに孕めない女だった。
これで家臣には彩里が産まず女だと言い訳が立つ。
「雪南…、羽多野を呼べ。食事を済ませ軍議に入る。」
後2週間もすれば完全に雪が止む。
「羽多野は既に、黒崎様をお待ちです。」
言われなくともわかってると雪南がニヤリと笑う。
こいつの中にも鬼が居ると感じる。
雪南の中の鬼が俺の中の鬼を主として選んだのだろう。
「鈴…、先に部屋へ帰って、食事の用意をしろ。それから今日は琴を義父の部屋で練習しなさい。上がった腕前を義父に聴いて貰え。もう義父の傍に居られる日は少ないぞ。」
軍議に鈴は参加させられない。
理解をした鈴は引き締めた表情で恭しく頭を下げ、俺に背を向けて歩き出す。
静々と廊下を進む鈴の背を見る雪南が目を細め
「流石、黒崎の姫だ。」
と鈴を褒める。
「違うぞ、雪南…。あれは、まだ俺の小姓だ。」
「では…、鈴も由へ…。」
「連れて行く…、あれに全てを与えてやる。」
「仰せのままに…。」
雪南が納得したならば、後は楽になる。