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戦場に響く鈴の音
第3章 羽織

直愛なら…。
そう考える俺を直愛がやんわりと制す。
「あの子は私に怯えてます。きっと雪南殿に対しても同じでしょう。」
直愛の遠回しな言葉が俺にはわからん。
「鈴が直愛に怯えてるとは?」
雪南に怯えるのは当然だろうと思う。
小さな子に上から目線であれだけガミガミと言えば怯えるのは当然であり、それ以上に疎ましいとさえ感じたとしても仕方がない事だ。
だが直愛は違う。
鈴に声を掛ける時は鈴の視線の高さまで腰を屈め、静かな物腰で語りかける。
それでも鈴はすぐに俺の背後へ逃げ出して来る。
怯えてると言われれば怯えてるようにも見えるが、人見知りをしてるだけにも見える。
「私と雪南殿は例え一瞬であったとしても、あの子に本気で刃(やいば)と殺気を向けてしまいましたから…。まだ、あんな小さな幼子(おさなご)に…。」
直愛が切ない瞳で庭を見る。
「それは…。」
「神路殿は違う。あの子がまだ幼子だと瞬時に判断を下し刀を収めておりました。あの子にとって自分の生命を預けるに至る人物とは、あの場で神路殿1人だけだったのでしょう。」
だから鈴は俺にだけ懐くのだと直愛が笑う。
その笑顔は穏やかで柔らかい。
雪南はともかくこの直愛になら、いずれ鈴も心を許す時が来るだろうと思う。
今は鈴にとって戸惑いが多過ぎる為に警戒心を緩める事が出来ず、足掻き踠いてる状況だ。
義父は俺が義父を受け入れられるようになるまで全てを俺の自由にさせてくれる懐の広い人だった。
どうやら鈴に対して俺がすべき事は義父のように気長に接してやるしかなさそうだ。
そう気持ちを改めた瞬間、またしてもパタパタと小さな足音が耳に付く。
「お待ち下さいっ!」
叫ぶ女中の声…。
うちの仔猫がまた何かをやらかしてる。

