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戦場に響く鈴の音
第26章 軍議



春までの時間を絶対に無駄にはしない雪南は準備の為に屋敷内を駆けずり回る。

細やかな人員の配置は雪南に任せて俺は羽多野と軍議に入る。


「由攻めですか?」


慎重な羽多野は眉を顰めて俺を見る。

表向きは互いの国を攻めてはならぬと神の帝の言葉があるが、この時代は奪い合いの世界…。

確かな不可侵条約でも無い限り、攻防戦は当たり前に続く。

冴と交わされた不可侵条約すら、いつまでもつかわかりはせぬ。


「攻める訳じゃない。」


俺の考えを羽多野に語る。

言葉を吟味する羽多野の眉間の皺はますます深く刻まれて行くのに対し、羽多野の息子の佐京(さきょう)は父親とは全く違う態度で俺をせせら笑う。


「そんな夢物語の為に由へ俺達を連れて行くと?」


佐京は軽薄な男だ。

常にヘラヘラと笑い、頑固な父親とは意見を対立させる。

佐京は茂吉と変わらぬ歳…。

未だに、独身で花街の女を次々に買っては、破産を繰り返し羽多野の家に戻る気まぐれな風来坊が佐京という漢だ。

世間じゃ羽多野の家はこの佐京が潰すとまで言われている。

だが、佐京はあの雪南が警戒するほどの実力を秘めてやがる。


『あれは不真面目故に愚かに見えるが、その心は計り知れない漢であります。』


俺が天音の訓練兵だった頃、羽多野が指導する訓練の打ち合いで佐京に勝った時に雪南が言った言葉だ。

その時は雪南に何が見えていたのかわからなかった。

その数日後、天音の街道で俺と雪南は野盗の襲撃に会った。


『こいつ…、李の飼い犬だったガキだ。大河の拾われっ子になったという噂は本当らしい。』


俺の護衛についていた5人の兵は一瞬で殺された。

俺も雪南も元服前のガキで、訓練用のチャチな木刀しか持ち合わせていない。


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