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戦場に響く鈴の音
第27章 道中
俺から走り去る鈴の背に
「あまり遠くには行くなよ。」
とだけを伝えておく。
どうせ、行き先は多栄のところだ。
寺嶋と共に天音に置いて来る予定だった多栄だが、自分は鈴の護衛だと譲らず、羽多野の軍勢について来てしまった。
羽多野は後続に配置した為、まだ村にすら入れていない。
「宜しいのか?鈴を一人にして…。」
雪南が警戒する。
宜しいも何も、この一帯は黒崎の兵で埋め尽くされている以上、由の農民が鈴を襲う心配は無い。
「大丈夫だろ…。」
呑気に答える俺を雪南が嫌そうに眉を顰める。
「何故、わざと鈴を怒らせるのです…?」
俺のおふざけが過ぎると雪南の説教が始まる。
まだ戦になるような状況では無いが、軍の中を鈴が勝手に動き回れば兵に余計な負担が掛かると言いたいらしい。
「あいつ…、寝てないんだよ。」
雪南にだけは本音を漏らす。
「鈴が…、ですか?」
「ああ、由の遠征が決まってから、ほとんど寝てない。毎晩、無理矢理にでも寝かせつけるが、すぐに起きてしまう。」
「やはり、鈴を御館様に預けるべきだったのでは?」
「それも何度か話し合った。鈴は義父と燕へ帰るかと…。無理だ。帰せば鈴は飯も食わなくなる。」
「それで?」
「あれが泣くくらいなら怒ってる方がマシなんだ。」
鈴の神経が張り詰めている。
幾ら心配など無いと言い聞かせたところで、鈴は一人で考え込んで余計な不安を自分自身で煽る。
そうやって泣かせるくらいなら怒らせる方が良い。
どれだけ怒らせたとしても鈴は俺の元へ帰って来る女だ。
「神路っ!」
多栄が操る馬に乗り鈴が戻って来る。