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戦場に響く鈴の音
第27章 道中
「鈴、そろそろ出発だ。」
俺の馬に乗れと言うと
「鈴は多栄の馬に乗る。」
と俺からそっぽを向きやがる。
「おい、鈴…。」
「神路の馬には乗らぬ。」
戻っては来ても拗ねやがる。
「多栄、俺の馬の横に付け…。」
それだけを言うと鈴が満足そうな表情で馬から俺を見下ろす。
自分の我儘が俺に通じるかを試してる。
構って欲しい時の鈴の悪い癖だ。
昔は激怒して泣き喚き自分の我儘を俺に押し通した。
絖花に余計な知識を教わった鈴は女の駆け引きを俺に挑む。
「出発する。」
雪南が伝令に指示を出す。
ダラダラと狭い道しか進めなかった軍勢は田畑を抜けて一気に行軍が加速する。
「神路っ!見てっ!」
多栄の馬上から鈴が叫ぶ。
田を埋め尽くす黄色花…。
「菜の花だな。あれは避けてやれ。」
多栄や他の兵に命令を出す。
「菜の花は避けるのか?」
鈴が不思議そうに俺を見る。
花なんぞ愛でる男じゃない。
「油を取る為に植えられている。つまり、あれも作物と同じ。由が生産出来る数少ない生産品だ。」
村の長老が田を抜ける事を渋った答えはそこにある。
由に対し、取り上げるだけの武家とは違うと示す必要がある。
「後で神路の馬に乗る。由の事をもっと教えろ。」
勿体をつけて鈴が言う。
「ほとんど知らねえよ。」
「なら、雪南の受け売りか?」
「いや、由に居た頃の記憶が多少はあるという程度だ。」
「神路は…、由の生まれだったな。」
一面を黄色く染める菜の花をどこか懐かしげに見る鈴が呟く。
「鈴は何も覚えてないのか?」
何度も聞いた話を今一度聞く。