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戦場に響く鈴の音
第27章 道中
どの村でも飢餓に近い惨状だとの報告が多い。
それは暁に近い村になればなるほど酷い有り様だと雪南が報告に記している。
俺の膝で小さく丸まった仔猫の髪を撫でる。
「すまぬ…、寝てしまった。」
慌てて飛び起きる鈴の頬に口付けをする。
「神路…、何かあったか?怖い顔をしている。」
鈴にそう聞かれても答えられない。
話せば怒りが込み上げる。
由は俺が居た頃と何も変わってない事実に虫唾が走る。
「食事にしよう。食べたら鈴はちゃんと寝ろ。明日も行軍しなければならない。」
今は無理に笑顔を作って鈴と食事をする。
「由は…、嫌い?」
俺の些細な感情を読み取るように鈴が目を細めて観察する。
「さあな…、昔の事は鈴と同じように忘れたから…。」
「嘘は嫌いよ…、神路からは怒りしか感じない。」
「この先の村は…、綺麗だとか言ってられない。」
それだけを言えば鈴が険しい顔をする。
そっと俺の顔に小さな手が触れる。
頬に鈴の唇も触れる。
「手は…、打つものでしょ?」
そう鈴が囁く。
「ああ、手は打つもの…、もう雪南がやってる。」
今夜の雪南は忙しい。
明日、届ける予定だった食糧を飢餓の状況が酷い村を優先して既に運ばせているはずだ。
医者が必要なら連れて行けと言ってある。
今は俺がやれる事など限られている。
まだ由に入って1日でこれかと思うとため息しか出ない。
「少し、散歩でもしたい。」
鈴が俺の手を引き天幕を出る。
「あまり遠くへは…。」
「大丈夫…、天幕を張る前に見つけた場所があるの。」
俺と鈴の天幕は丘の斜面を背にしてる。
その斜面を越えて鈴が崖っぷちを登り出す。