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戦場に響く鈴の音
第28章 説教
夕べ、俺と鈴が居た崖の奥の森に更に高く聳える崖があり、その下の洞窟が怪しいと茂吉が言う。
「入り口を布で塞ぎ、薪を炊いた跡があるんす。」
茂吉が言う通り、野盗の窼としてはお粗末だとしか言えない。
「とりあえず、洞窟の入り口を兵で囲め、反対側に出口が無いか確認を急がせろ。」
「洞窟に入りますか?」
「いや、入らぬ。入り口に誘き寄せろ。」
手際良く、茂吉の兵が入り口を囲い、入り口を塞ぐ布を外し中へ向かって声を掛ける。
「素直に出て来い。大人しくするなら攻撃はせぬ。食事も与えてやる。但し、出て来ぬならば容赦はしない。」
茂吉の補佐をする京八(きょうや)という男が洞窟に向かって叫ぶ。
天音の屋敷で訓練を受けさせた一人だが、元は叉鬼(またぎ)の一族だったらしい。
刀はほとんど振るえないが弓や槍の使いには慣れており、茂吉の兵の中では知識も豊富で使い勝手の良い男だ。
2度、3度と京八が洞窟内に声を掛けるが出て来る気配がしない。
「出口は無いし、煙かなんかで燻り出しますか?」
焦れる茂吉がそう言えば
「そんな事をすれば死ぬかもしれない。」
と鈴が首を横に振る。
「鈴…、琴はあるか?」
鈴の荷物は少ないが琴だけは持って行くと雪南に駄々を捏ねていた覚えがある。
「あると思う。あれだけは行軍の荷物とは別にして貰ったから…。」
あくまでも鈴の私物として持って来たなら、まだ荷物は手元にあるはずだと鈴が言う。
「田井兄弟に持って来させて弾いてやれ。」
「洞窟にか?」
「まだ下手くそなままなのか?」
「馬鹿にするな。」
胸を張って鈴が暗闇しか見えない洞窟を睨む。