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戦場に響く鈴の音
第28章 説教
鈴の琴が通じるかはわからないが、子供なら興味本位で顔を覗かせる可能性に賭けてみる。
「嬢ちゃんの演奏が聴けるのか?」
茂吉や兵がソワソワし始める。
「けど、旦那…、あんな田舎村のガキに嬢ちゃんの音色が通じますかね?」
怪訝な表情を浮かべる茂吉が言う。
「さあな、ガキなら興味だけで顔を出すだろ。握り飯を洞窟の前に置いてやれ。」
そうやって子供を引っ張り出す準備が行われる。
本来は荷物を置く為の台座の上に鈴の琴が置かれる。
「やれるか?鈴…。」
「やらなければ、あの子達は堕ちるのだろ?」
キュッと鈴が唇を結ぶ。
俺は鈴のような子を増やさぬ為…。
鈴は俺のような子を増やさぬ為にと奮闘する。
鈴が着物の袖を紐で縛り、琴へ手を添える。
ピンッと張り詰めた一音から始まる雨垂れの音…。
やがて、音が集まり小川のせせらぎのように流れ出す音色へと変わってく。
「嬢ちゃん…、いつの間に…、あんなに上達して…。」
柑で鈴の初めての音色を聞いた茂吉が目を大きくする。
「絖花の教えが良かったからだろ。」
俺がそう言えば茂吉が照れたように頭を搔く。
小川のせせらぎが大河の大波へ移り行けば洞窟の端ではチラホラと小さな顔が瞳を輝かせながら覗かせる。
「食って良いのだぞ。」
京八が子供に向けて握り飯を差し出すのが見える。
迷いを見せる子供達…。
小さな子はまだ3歳にもなって無い。
5~6歳くらいの子がその3歳にならない子の手をしっかりと握る姿だけはハッキリと確認が出来る。
鈴の音が続く。
川は海へ音を変え、音色は母のように小さな子達を包み込む。