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戦場に響く鈴の音
第28章 説教
鈴は表情一つ変えずに琴を引き続ける。
「そんな生き方でお前よりも小さな子達が守れるのか?」
俺はただ少年を追い詰めるだけだ。
一番小さな子は今にも泣きそうな顔をする。
「うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!」
追い詰められた少年は獣のように吠える。
李に俺は犬だと言われた頃を思い起こす少年に理不尽な怒りを感じてしまう。
なら、どうすれば良かったと言いたいのだ?
先に西元を焼いたのは万里だ。
俺は戦場で最善を尽くしただけだ。
そんな理屈が子供に通るとは思えない。
鈴の音がまた変わる。
それは哀しみの雨垂れ…。
それは鈴の怒り…。
ピーンッと最後の一音を奏でた鈴がフゥと大きな息を吐く。
「鈴…。」
声を掛ければ、ゆっくりと立ち上がる鈴が駆け寄って来る。
てっきり、俺の側へ来るつもりだと思っていた。
「嬢ちゃんっ!?」
茂吉が素っ頓狂な声を出す。
「鈴っ!待てっ!」
俺の横をすり抜けた鈴が少年の前まで駆けて行く。
「鈴っ!」
心臓が止まるかと思った。
吠え続ける少年の頬がパチンと弾けて真っ赤に染まる。
「お前っ!何すんだっ!」
少年の怒りが俺へではなく、少年を平手打ちした鈴へ向く。
「り…。」
止めるつもりが足が動かない。
「お前は馬鹿か?お前が村を出ればおっ母と妹が食える?そんな事は絶対に起きないのだ。お前は米を奪いに来た侍達と戦わずに逃げ出しただけだ。」
鈴が少年に向かって説教をする。
その言葉遣いはまるで雪南の生き写しだ。
「お前こそなんだ!!」
「鈴は神路の小姓だ。」
「女のくせに…。」
「そうだ。鈴は女子だからと商人に売られた。鈴が我慢をすれば鈴のおっ母が食えると騙されて、嫌な男に毎晩身体を触られて舐め回された。だが神路は鈴を助けてくれた。神路はお前達も助けようと由へ来たのに、村から逃げたお前は泣き言ばかりを言って、小さな子に握り飯すら与えようとせぬ。」
最後は涙をボロボロと流し、感情的になる鈴は雪南のように冷静さを維持する事が出来ぬ。