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戦場に響く鈴の音
第28章 説教
鈴と与一を馬から降ろし
「ここで待ってろ。」
と言い聞かせたが二人は勝手について来る。
軍の先頭が騒がしい。
羽多野が仁王立ちし、佐京がヘラヘラと笑ってる。
「何事だ?」
羽多野にそう問えば、見知らぬ侍が俺の前に歩み寄る。
「我が殿に近付くなっ!」
侍に向かって羽多野が刀を抜き構える。
あの佐京も刀を抜いてはいぬが束に手を掛け抜く姿勢だけは見せやがる。
「何者だ?」
雪南に確認をすれば
「蘇は筆頭老中の黒崎様の嫡子で、我が由の笹川の姫の婿様であられますな?某は笹川の殿よりの申し付けで黒崎様を迎えに来た角(かく)と申す者であります。」
と侍が恭しく俺の前に跪く。
痩せている角はニヤニヤと口元を緩ませてはいるが、計算高く俺と雪南を吟味するかのように観察する。
「笹川…、孩里の迎えか?」
「左様にございます。」
陽まで、後半日の距離…。
馬だけなら、そう時間はかからない。
だが、俺の後ろに隠れていた与一がポツリと嫌な言葉を口にする。
「あの侍…、村の米を全部持って行った奴だ。」
与一の怒りを感じる。
羽多野達も角からは嫌な空気を感じ取っている。
信用が出来ない出迎え…。
おおよそ、頼りない孩里を操り私腹を肥やしてる連中の一人が角という家臣なのだろう。
「悪いが、陽へは明日に着く。わざわざの出迎えご苦労であったが孩里には明日に行くと伝えろ。」
角にそう言うと、さっきまで笑っていた口が閉じ、露骨に嫌そうな視線を俺に向ける。
「いやいや、孩里様の義兄君様に野宿などさせられませぬ。陽では黒崎様の為に宴を用意し、花街の女子も取り揃えております故、是非ともご一緒に来られるべきかと…。」
角が一緒に来いと食い下がる。