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戦場に響く鈴の音
第28章 説教
与一の奴はちゃっかりと俺の天幕に入り込み、雪南が運ぶ食事にがっついて雪南に嫌な顔をさせる。
「黒崎…様…。」
「飯くらい食わせてやれ。」
あの時、与一は自分の分の握り飯を小さな子に分け与えた。
飲まず食わずで俺について来た以上、飯くらいで目くじらを立てても仕方があるまいと雪南を諌める。
「なあ、兄ちゃん…。」
飯を汁で押し流す与一が行儀悪く俺を見る。
「黙って食え。さもなければ、その雪南という怖い男がお前の飯を片付けてしまうぞ。」
冗談で誤魔化そうとしたが与一は真剣な眼差しを俺に向ける。
「兄ちゃんは由へ戦に来たと言ったな。俺達を助ける為に…。」
話をぶり返すのかと与一を無視して酒を煽る。
「戦ってのは、陽の殿様を倒すって意味か?陽の殿様と戦になれば俺の村から、また人が居なくなるって事だよなっ!」
与一が語気を荒げるから雪南が刀を構える。
「良い、雪南…。与一にわかるように説明をしてやれ。」
俺が由へ来た目的を全て話す訳にはいかないが与一が納得する程度は教えてやれと雪南に命ず。
「今、陽の孩里は原の伯里、夜の透里と睨み合っている状況だ。孩里は伯里達に攻められた場合を想定して籠城の構えを見せている。お前達の村から一粒残さず米を取り上げたのはその為だ。」
雪南の説明で学を得た鈴は理解をした上で唇を噛み締めるが、与一の方は理解が出来ずにポカンと口を開けて雪南を見る。
「籠城?」
「元服をしたばかりの孩里には戦の経験が無い。家臣達も私腹を肥やす事しか考えておらぬ。城に立て篭り蘇に嫁いだ姉が援軍を送って来るまで凌げれば勝ちだと思っている。」
「だから、その為に兄ちゃん達が来たのだろ?」
「それは違う。我々は孩里が期待する援軍ではない。」
冷たい瞳で与一を見下ろし淡々と状況を語る雪南に与一が怯えた表情をする。