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戦場に響く鈴の音
第29章 使者
「ごめん…、鈴に嫌な事を言わせた。」
何故か与一までもが泣きそうな顔をする。
「心配事か?与一…。」
多栄の馬に俺の馬を寄せて聞いてやる。
「俺の妹…、俺やおっ父に似ずに可愛いんだ。前に商人が来て妹なら大きな街で花魁になって綺麗な着物を着て腹いっぱい飯が食えると言った。でも、おっ父は自分が兵隊をやれば家族が腹いっぱい食えるようになるからと、商人を追い返した。」
家族が居る村が離れるにつれ、家族の事が心配になるものだ。
与一は村に残して来た家族の心配をしている。
自分も父親のように戻らぬ人となったら、妹がどうなるのかと知りたいから鈴に質問をした。
「やはり村へ帰るか?与一…。」
俺の質問に与一は横へ首を振る。
「兄ちゃんと行けば、妹は飯が食えるんだろ?」
そう与一が確認する。
羽多野の兵に与一の村へ行くように言ってある。
与一が俺に付いた事で裏切り者の家族という扱いを村で受ける可能性があるからだ。
戦次第では与一の家族は村の英雄の家族となるが、結果が出るまでは随分と先になる。
最悪は与一の家族を陽へ移せと命じてある。
与一さえ生命を落とさねば、家族はちゃんと飯が食える状況にはしてやったが、与一は気が早り落ち着きを失くしている。
朧までは田畑を使っても10日以上はかかる。
暁までの道中とは違い、本格的な戦になると誰もが感じ取り景色を楽しむ余裕すらない。
「神路…。」
鈴が小さく呼ぶ。
「どうした?」
鈴の髪を撫でて頬に口付けてやれば微かではあるが鈴が笑顔を取り戻す。
「どんな相手だろうと神路なら勝てるよね?」
俺が民に気を遣い戦えなくなる事を心配してやがる。