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戦場に響く鈴の音
第29章 使者

朧に対しては既に先手は打ってある。
朧は暁とは違う。
あれは西元と同じ防衛の砦…。
无の国境と面している上に由と神を繋ぐ唯一の街道沿いに設けられた城だ。
笹川の三男故にそんな辺境の主となった透里は孩里のようにあっさりと城を明け渡すとは思えない。
だから、西元から送った糧はあくまでも陽周辺の村に限った。
報告では、冬越えを諦めた民が村を捨てて陽側へと移動したとは聞いている。
そうやって透里が使える兵を減らしたとはいえ、砦となれば籠城は避けられぬ。
万里の真似をして奇襲で火攻めをしたとしても、後々に困るのは大軍を連れているこっちの方となる。
毎夜、行なわれる軍議でも雪南の口数が減って来た。
「夢物語にする気はないと言わなかったか?坊っちゃん。」
佐京の嫌味に雪南が険しい顔をする。
「まだ朧までは3日もある。」
「その3日で来る物が来なけりゃ、俺達の方がやばくなる。」
「暁からの支援がある。」
「暁の倉はほとんど空っぽだっただろ?ここに来るまでにも糧は散々ばら撒いての行軍だ。籠城をぶち破る決定的戦略が無けりゃこの戦は終わりだ。」
「お前などに言われなくともっ!佐京っ!」
行軍の疲れから雪南の気が短くなってるというのに、佐京の嫌味で流石の雪南も感情を剥き出しにしやがる。
「雪南…、大丈夫だ。」
「しかし、黒崎様っ!」
「お前が間違う事は無い。佐京も俺のやり方に従えないというならば10万人将の役を降りて貰う。」
俺が佐京を手放すはずが無いと余裕のある佐京がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「誰が俺の代わりを務めると?」
「水野だな…。」
「あれに親父から預かった兵を含む20万が扱えると?」
佐京が言う言葉は事実だ。

