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戦場に響く鈴の音
第30章 予測
そっと鈴の手が俺の髪に触れる。
暖かな手の温もりは昔と変わらない。
鈴の手が離れると淋しさが込み上げる。
「鈴っ!」
起きて振り返えれば鈴が笑ってる。
黙ったまま琴の前に座り、弦に細い指先を添える。
鈴の音が響き出す。
明日には修羅場となる戦場に穏やかな音色が流れる。
誰もが神経を尖らせるのが当たり前の戦場で鈴の音だけが暖かさと優しさを伝えるように鳴り響く。
天幕の入り口に雪南が顔を出す。
「宜しいか?」
その手には俺と飲む為の盃と酒を握ってやがる。
「鈴の琴を肴にする気か?」
「嫌なら黒崎様は飲まなくて良いです。」
「飲むに決まってる。」
俺と雪南の会話に鈴が微笑む。
戦場のはずなのに、いつもと変わらない風景が広がる。
「うわっ!旦那達だけ飲んで、狡いっ!」
茂吉がそう叫んで天幕に押し入って来やがる。
「静かしろ。鈴の音が聴こえなくなる。」
「その音を聴きたいと皆が集まってますよ。」
茂吉がニヤリと笑う。
天幕の周りには多栄や与一、茂吉の家臣達が集まってる。
俺の兵や雪南の兵達も遠巻きではあるが鈴の音に耳を澄ます。
鈴だけが満足そうに微笑んで琴を奏で続ける。
「佐京の事は腹を括った。」
雪南にそう伝えてやる。
虐殺の鬼と呼ばれたとしても、俺自身は鬼と向き合える。
鈴の音がある限り…。
「佐京の行いの責任は私が請負います。読み違えたのは私…、黒崎様ではない。」
雪南も俺と同じように腹を括る。
守りたいものがある以上は受け入れるしかない。
鈴の音が皆を強くする。
皆が鈴にせがむから、鈴の音は深夜まで続く事となった。