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戦場に響く鈴の音
第31章 天使
多栄や与一が鈴を慰めようと駆け寄るが興奮が治まらない鈴は彼らの手を振り払う。
「嬢ちゃん…。」
茂吉が鈴に同情する。
念の為に茂吉の部下には農民や商人のフリをさせて、磐の城下街で待機させる予定だ。
「置いて行くなら俺が慰めてやろうか?」
佐京だけがヘラヘラとして、この状況を笑いやがる。
鈴が留守番を嫌がる事はわかっていた。
だとしても、鈴の為に計画を変える事は出来ない。
「これは決定だ。従えないというなら燕に帰れ。お前は黒崎の姫なのだからな。」
「鈴が姫になりたいなど望んだ事はないっ!」
そんな事は百も承知…。
鈴が望むのは俺の傍…。
そして俺は鈴よりも戦を選ぶ。
「後は任せるぞ。」
俺の袖を掴む鈴の手を外す。
鈴は驚きに目を見開く。
俺は鈴に背を向ける事しかしてやれない。
「行くぞ…、雪南…。」
後の指示を出した以上、雪南を伴い城を出る。
「鈴は…、大丈夫でしょうか?」
珍しく雪南が鈴を心配する。
飯は食わない、眠りもしない。
そうやってしばらくは皆を困らせるのだろうと想像はつく。
「俺に…、聞くなっ!」
そう答えて馬を飛ばす。
茂吉の部下は既に磐へ徒歩で向かっている。
呼び出しが来るのはわかっていた。
農民や商人が馬を使えば目立つからと、徒歩で行けと命じてある。
皆、神からの民という触れ込みにしてある。
今は蘇の人間を由は受け入れはしない。
民を傷付けずとも、城を取れば民は警戒する。
「馬が潰れます…。」
無理矢理に馬を走らせる俺の前に雪南が出る。
由の狭い街道では必然と俺の馬が減速する。
「不便な街道を作りやがる。」
思わず舌打ちをして、悪態が出る。