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戦場に響く鈴の音
第31章 天使
「これも弱き者の知恵…。」
いつもの冷たい声でなく、俺を宥めるように言う。
「知恵だと?」
「由は開国から貧しかった。无や蘇に占領を受けるのは時間の問題とされていた。この狭き道が大軍を動かす事を難しくし、村や城を点在させる事で由は守られて来たのです。」
「幾ら、狭くとも俺がやったやり方をされれば意味が無い。」
「貧しいから…、貴方のように糧を湯水の如く使う戦法など思い付かなかっただけの事…。」
わかってる。
俺だって後ろ盾が無ければ、糧を湯水のように使う戦法などお断りだと思う。
こんな戦法は朧を取った段階で破産する。
ましてや見返りが薄い、貧しい由の国…。
占領したからと言って民から取れる物など何も無い。
それが国を守る為の由の戦略だと雪南が言う。
領主が領民からギリギリまで搾取するのもその為だ。
それでも、俺や与一のようになる子供が一番多いのが由の国…。
鈴が嫌がるから…。
俺はその根本を絶つ戦をやると決めた。
覚悟はしていたくせに、頭ん中じゃ鈴の泣く顔がチラつく。
笑っていて欲しいと思う。
無表情だったあいつがずっと笑って居られるようにしてやりたいだけなのに…。
「黒崎様…。」
雪南が俺を慰める。
「鈴も…、いつかは理解をします。」
「わかってる…。」
「貴方が心配なだけですよ。」
「わかってると言っている。」
ただ悔しかった。
鈴よりも戦を選んだ自分の路を後悔などしてはいないが、どうしようもなく悔しくて歯噛みする。
俺に力が無い。
とどのつまりはそこになる。
女一人を笑わせてやる力すら俺には無い。
泣かせて喚かせて、捨て置いて来た自分にますます凹む。