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戦場に響く鈴の音
第31章 天使



磐まで、雪南を伴い悶々とした旅路となる。


「そろそろ鬱陶しいですよ。」


雪南が嫌な表情を浮かべて冷たく言う。


「鬱陶しいとか言うな。」

「毎夜毎夜、酒浸りになっては鈴、鈴と女々しく泣き言を繰り返されれば鬱陶しいとしか言い様がありませぬ。」

「だから…、鬱陶しいとか言うな。」


寝ようとすれば鈴の泣き顔だけが見える。

それが嫌だと馬鹿みたいに酒を煽る。

この2週間はその繰り返しだ。


「明日、磐へ入ります。田井兄弟や京八は先に入ったと報告がありました。今夜くらいは酒をほどほどにしてしっかりして頂かなければ困ります。」

「わかってる。俺は酔わねえよ。」


酔ったフリをしただけだ。

鈴の居ない一人寝がこんなに辛いとは思ってもみなかった。

それを誤魔化す為に酔ったフリで雪南には俺が酔い潰れるまで酒に付き合わせた。

わかってて雪南も俺に付き合った。

今も俺は雪南に甘えているガキのまま何も変わってない。


「由の奏とは?」


どんな奴かを聞いて来る。


「大河様から聞いた話くらいしか知らねえよ。」


御館様の小姓をしてたと言っても実際に会うのは初めてだ。

由の大城主、奏…。

御館様は子鼠の様な男だと言っていた。

そもそも、蘇と由の国境は天音川と定められていた。

今の蘇の大城主、大河様の曾祖父の代に由が西元へ攻め込み、支羅と名を変え占領した。

蘇は豊かであったが由は貧しく、西元くらいならと蘇はそれを黙認したが、支羅の領主に李が据えられてから問題が大きくなる。

李は横暴であり、天音周辺の村々まで搾取を繰り返し、金子や糧の全てを我が物としてしまう。

その李が得た莫大な利益で私腹を肥やして来たのが由の大城主の奏という男だ。


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