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戦場に響く鈴の音
第31章 天使
「天使だと!?」
普通では有り得ない状況に奏の表情が固まる。
雪南の身分で天使になる事など先ずは無い。
蘇の場合、天使になれるとすれば、筆頭老中である義父か宰相である秀幸くらいだ。
その嫡男の俺を差し置いて、ここでは雪南の方が身分が上だと晒した事になる。
奏は俺を召喚し、雪南が俺の護衛だと勘違いをしていたが、俺が天使として奏への書状を持って来た雪南の護衛役だったのだから驚くのも当然だ。
「大人しく、我らを朧へ帰すならば、その身柄の拘束は見逃しましょう。但し、今年の神国大祭は四国協議も行なわれます。それに出席する召喚状も帝から承っております。自力で神国へ参られるか、我らに拘束を受けて伴われるか、お好きな方をお選び下さい。」
最後は雪南の美しい笑みの前で完全に言葉を失った奏が崩れ落ちる。
「だから…、俺より目立ち過ぎ…。」
思わず雪南に文句が出る。
「全ては我が主の為…、早く朧へ帰りたいのは誰ですか?」
雪南の問には、どんな人間だろうとぐうの音も出ぬ。
「はいはい、天使様…、朧までしっかりと護衛をさせて頂きます。」
今日は俺が雪南の前に跪く事になる。
「そういうのは冗談でも止めて下さい。黒崎の品位を貴方が汚す事は許さない。」
俺の教育係だった雪南が俺を立たせ、俺の前に跪く。
俺は天使よりも身分が高い存在なのだと、由の大城主や兵士の前でわざと見せ付けるように、雪南が振る舞う。
いや、雪南が従うのは黒崎の名を持つ者だ。
雪南が高めているのは筆頭老中黒崎の名を持つ義父…。
俺が義父よりも駄目な当主となれば雪南は容赦なく俺を見捨てるぞとプレッシャーを掛けてやがる。