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戦場に響く鈴の音
第31章 天使
俺は立場を弁えて、黒崎としての態度を取る。
「朧へ帰投する。」
雪南にそう命じれば、俺に一礼する雪南が奏の前に帝からの召喚状を差し出し
「これにて失礼を致します。くれぐれも愚かな事はお考え無きよう申し上げておきます。」
と由国内で天使に手を出せば、国そのものが亡くなるのだと雪南が釘を刺す。
俺が一歩を踏み出せば、由の兵士達が怯えた表情で道を開けた挙げ句に刀を収めて跪く。
由の兵士といえど、天帝の兵士…。
逆らえば大城主と共に死罪が言い渡される。
家臣に好き勝手をさせて来た由だからこそ、家臣には大城主に対する忠義などなく、強き者へと簡単にひれ伏する。
これが由の現状なのだと大城主の奏に叩き付けて俺と雪南は赤羽城を後にする。
「俺が由に仕えると本気で考える辺りが浅はかだな。」
奏の感想を口にすれば
「それだけ由の家臣が使えないからでしょう。」
と孩里の教育をしている雪南が言う。
孩里がまともな領主となるには時間が掛かる。
ただ笹川が持つ領地だけでも民が潤う生活が出来るようになれば、由全体をギリギリでも飢えから救えると雪南は見てる。
「行きましょう。」
城門で馬を受け取り、宿で待つ京八のところへ戻ろうとすれば
「お待ち下さい。」
と由の兵が6名ほど城から出て来る。
「何だ?」
兵士の一人にそう問う。
「由は赤羽の第三十八警備隊、隊長を務める、晋 聖颯(しん せいは)と申します。此度、天使である蒲江様と蘇は筆頭老中代理の黒崎様の朧までの帰路の護衛を大城主より承りました。道中、何一つご不自由が無きよう務める所存であります。」
俺と変わらない年頃の晋が馬の横へ跪く。