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戦場に響く鈴の音
第32章 閣議
雪南にしては慎重な報告だと思う。
「それで?」
続きを言えと急かす。
「透里からの伝達で…、伯里も折れたと…。」
「意外と早かったな。」
透里には宙の籠城に蘇が支援する条件として孩里を笹川当主として伯里に認めさせろとは言ってある。
「我らが磐を出たと同時に宙へも大城主から伝達が向かったからだと思います。」
磐から各地への伝達が出た事はわかっている。
雪南が天使である以上、由の兵も民も俺達に手を出すなと早馬が散らばるのは確認した。
「ならば、次の段階に入るのか?」
「そうですね…、意外と早く笹川当主の問題が片付いた以上は次の段階に入っても宜しいかと…、ですが時間の余裕もありますので計画の変更を…。」
「それは雪南に任す。皆を広間に集めろ。閣議だ。」
「御意…。」
雪南が一礼して部屋を出る。
「鈴…。」
俺の後ろに控えていた鈴を見る。
「次の段階とはなんだ?」
疑うように俺を見る金色の瞳が光る。
「その説明は後だ。着替えろ。」
「何故だ?」
「鈴も広間に来い。黒崎の姫として閣議に出ろ。」
「でも、着替えって…。」
「義父から義母の着物を貰っただろ?」
「あれか…。」
亡き妻の着物を義父は全て鈴に与えた。
数枚だけを鈴の寸法に直し、由へ持って来させている。
少し派手目ではあるが打掛の裾が長く、大城主の城などに呼ばれた時に着る余所行きの為の着物…。
普段の鈴はそんな着物は動き難いだけだと安く短い打掛を好むが男ばかりの閣議に座らせるには黒崎の姫らしくして貰わないと恥をかくのは義父となる。
鈴が着替えを済ませると口を尖らせて俺を見る。
「動き難い…。」
そう呟いて眉を寄せ頬を膨らませる鈴を抱き上げてから俺が広間へと連れて行く。