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戦場に響く鈴の音
第33章 悪夢
義父はそれを断った。
理由は二つ…。
一つは汐元はあくまでも大河に仕える武家として治める領地を与えられている。
冴に面した宇喜多…。
由に面した黒崎…。
双方が汐元を守る形で存在する。
汐元の領地は安全な神としか面しておらず、大海に面する奥州の塩や、宇喜多領地で栽培される茶葉、それに黒崎領地から出る材木や米、鉱山から出る鉱物などを神の商人と取り引きをして、金子の部分で蘇が潤うようにする重要な役目を担っている。
そんな汐元がホイホイと黒崎の婚姻の儀に現れれば、宇喜多や奥州があまり良い顔をしなくなる。
要は、示しの問題だ。
もう一つの理由は汐元の気前の良さだ。
義父とは寺子屋からの同期…。
気心の知れる黒崎に送り付けられる祝いなどは、普通の倍は用意をして来る汐元だが、俺の婚姻は建前だけの婚姻であり、直ぐにでも破綻すると義父は見ていた。
そんな適当な婚姻にわざわざ汐元が天音まで祝いを持参すれば、黒崎としては後々に汐元に頭を下げる事となる。
早々に天理を抜け北に向かって天理街道を走れば3日後には白銀山脈を背にする天太の街が見えて来る。
「これが…、天太…。」
鈴が独り言のように呟く。
商業街、天太は高い塀に囲まれてはいるが城は無く、塀の四方に砦が高く聳え立つ街になっている。
広さは燕と変わらず、神から汐元へ入る商品の半分近くを天太の商人が取り扱っている。
義父と懇意という事もあるが、それ以前より、西方領地より産出される宝石は神では高く取り引きが可能であり、汐元が全ての商品を天太へ差し出しても汐元は潤う仕組みになっている。
黒崎はこの汐元から入る商品の一部を黒炎に献上する事で筆頭老中の地位を確固たるものとして来たのだ。