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戦場に響く鈴の音
第33章 悪夢
「残念だが、今回は時間が無いから天太見学は出来ない。」
街に入るなり、義父への土産を物色しようとする鈴を捕まえて諭す事となる。
「なぬ?こんなに店があるのに見てはいけないのか?」
鈴が不満を漏らす。
「もう夕刻、宿に入る。明日は朝一番に発つ。」
「半日くらい…。」
「駄目です。」
「神路のケチ…。」
「天太のものは全て神で売ってる。」
「天太の名物は無いのか?」
「無い…。」
あくまでも流通の基点となる商業街だ。
西方領地中の商人が来て、商品の売り買いをする為の場所に名物など必要が無い。
「つまんない…。」
馬の上で鈴が不貞腐れる。
「物見遊山に来た訳じゃない。」
「でも、神路は戦に行くのではないとも言うた。」
「鈴…。」
退屈してるのだとわかる。
ただ、馬を走らせるだけの3日間だった。
天理までは多栄や与一、茂吉も居た。
茂吉はひとまず柊へ与一を連れて戻り、多栄は柊から更に燕側に近い棌(さい)の街へ向かった。
棌は小さな街だが、須賀と寺嶋が居る。
由から戻り、各々が想いある地へと向かう中、鈴だけは俺と雪南と共に神へ向かってる最中だ。
皆とは庄条で合流する予定だと言うのに、いざ天太を出るとなると鈴が泣きそうな表情をする。
「だから…、言ったんだ。」
「だって…。」
「月の障りが来れば、鈴が辛いだけだと言ってあった。」
「勝手に来るのだっ!鈴のせいじゃないっ!」
仔猫が雪南の用意した輿の中で喚く。
これがあるから女子は家から出ないのが本来の姿なのに、漢として育てたのが間違いだったのか鈴は家に残される事を嫌う。