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戦場に響く鈴の音
第33章 悪夢
「まっ…!」
伸ばした俺の手を小さな手が握る。
「神路…。」
鈴の声がする。
「鈴か…?」
「魘されていた。大丈夫なのか?」
月の障りが始まってから鈴とは床が別だからか?
「悪夢を見ただけだ。」
「それは…鈴が…、悪いのか?」
こちらの仔猫は本当に泣きそうな顔をする。
「そうではない。」
久しぶりに鈴を膝に抱き上げる。
「汚れたら…。」
鈴が脚をモゾモゾとさせる。
「構わん…。」
辛いだけだ。
鈴が居るのに、鈴に触れない。
そんなくだらない事で苛立つ自分が情けないと鈴の柔らかな胸元に顔を埋める。
静かに俺の頭を撫でて来る。
「庄条ではゆっくりと出来るの?」
鈴が聞く。
「ああ…。」
多分、汐元が俺を引き留める。
「なら、琴が弾ける。」
たかが琴で鈴が嬉しそうに笑う。
鈴が琴を奏でる僅かな時間だけは俺が穏やかな気持ちになれる事を知っている。
「茂吉や多栄にも聴かせてやれ。」
「早く皆に会いたい。」
「ああ…、そうだな。」
その2日後には鈴の障りが終わり、俺の悪夢も終わった。
輿から馬に移りご機嫌になる鈴が瞳を丸くする。
「あれが…、本当に庄条なのか?」
少し不安そうな声…。
「そう…、あれは間違いなく庄条だ。」
天太と瓜二つの街に鈴が息を飲む。
知らずに来た商人は天太へ引き戻された感覚を味わうと言われるほど庄条は天太と似た高い塀に囲まれている。
「天太との違いは?」
「ほとんど違いは無い。商品や商人もほぼ同じだからな。」
「何故、そっくりなのだ?」
「片方が襲われても片方があれば国内の流通が滞る心配が無い。だから汐元と黒崎がお互いで協力をし合い双子の街として造られたのが始まりだ。」
商人の街…。
野盗や他の国が狙うには絶好の街だと言える。