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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣



「雪南、屋敷に戻る。戦の準備だ。」


俺の声に雪南と直愛が我に返る。

2人は無言のまま城を出る俺について来る。

黒崎の屋敷に戻った瞬間、水を得た魚のように雪南は立ち直り俺に向かって叫び出す。


「何を考えてるのです。黒崎様っ!」


雪南は俺を黒崎様と呼び義父を御館様と呼ぶ。

煩い雪南を無視して屋敷に上がり義父を探す。


「義父は?」

「東側の縁側の方に…。」


女中が俺に答える。

一応、ここは黒崎の本屋敷…。

大河家臣の中では黒炎の城下で一番広い敷地を持ち、屋敷の広さも半端ない。

東側の縁側…。

義父の部屋にある縁側…。

そこから見える庭が義父の自慢の場所だ。

御館様が幼少の頃、庭師になりたいと御館様は庭いじりに嵌(はま)ってしまった時期がある。

黒炎では誰もが御館様の庭いじりに反対する中で義父だけが


『うちの庭をお好きなように使って下さい。』


とここの庭を差し出した。

大城主が作った庭を持つ家臣は黒崎だけだという義父の小さな自慢を俺は何度も聞かされた。

そこに居る義父を求めて屋敷内を移動すれば雪南と直愛は犬のように俺の後ろについて来る。

義父の部屋…。

無造作に襖を開けて入れば、部屋の向こうの縁側に座る義父の背中が見えて来る。

義父がゆっくりと首を回し俺の方を見る。


「おかえり…。」


いつもと変わらぬ、のんびりとした声…。

だが義父の顔には新しい引っ掻き傷が増えてる。


「また傷が増えましたね。原因は鈴ですか?」


怒りに震えた声が出る。

義父が困った顔で自分の膝を見る。

義父の肩から小さな仔猫が顔を出す。


「鈴、爪は切ったのか?」


先ずは、そこから確認する。

鈴は義父にしがみつき、怒る俺に情けない顔をする。



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