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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣
義父が優しく鈴の頭を撫でる。
「切ったよな。私の傷は爪切りの時に付いたものだ。」
「義父が切ったのですか?」
「女中達に触らせないからね。」
義父の言葉に鈴はますます身体を小さくする。
「鈴っ!」
「構わぬ。神路…、その後は大人しく本を読んで菓子を食べて良い子にしてたのだから…。」
留守番をさせられた鈴を義父が庇う。
その留守番について俺は義父と鈴に話がある。
「西元が由の手に堕ちました。西方領主である義父の代わりに俺が出陣します。」
「ほほう…。」
義父はのんびりと俺の話を聞く。
「で、この子は?」
「置いて行きます。後はお願い出来ますか?」
義父が返事をする前に義父を蹴飛ばした鈴が俺に飛び付く。
「鈴も行くっ!これ以上、留守番するなら、もう神路の小姓なんかやらない。鈴は他所の小姓になる。」
「鈴、無理だ。今回は戦だぞ?厠なんか無いからな。」
「それでも行くっ!神路と行くっ!」
鈴の言葉に胸が痛む。
親に見捨てられた子の叫び…。
「羽織はまだ乾いて無いぞ。義父とここで俺の帰りを待て…。」
「鈴も行くっ!羽織なんか要らない。神路が行くところに鈴は行くんだっ!」
流石の義父も驚きの顔で俺を見る。
さっきまで義父の膝で大人しく待ってた子がこれ程まで激しく豹変すれば驚かずにいられない。
俺自身も驚いてる。
鈴がここまで感情を剥き出しにしたのは初めての事だ。
いつも、ぼんやりとしてるだけの子…。
自分が気に入らない時だけ相手を引っ掻いて逃げ出す仔猫。
その仔猫が涙を流し、自分の一方的な言葉だけを喚き散らす。