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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
この思い込みの激しい天然仔猫に佐京が何を吹き込んだのかを考えるだけでため息が出る。
「佐京に何を言われた?」
顔を伏せたまま俺にしがみつく鈴に問う。
「神路と雪南がやってる事は…、夢物語だと…。」
声を震わせる鈴の額に口付けて言い聞かせる。
「夢で終わらせぬ。」
「しかし…。」
「言ったろ?俺は負けぬ。」
「確かに神路は強い…、だが、繰り返される歴史はもっと強いと佐京は言った。」
頭が真っ白になった感覚がする。
「───っ!?今、何と言った?」
「だから、神路は強いと…。」
「そうではないっ!歴史を何だと言ったのだっ!」
鈴の細い手首を掴んで捩じ伏せる。
「かみ…、痛い…。」
「言えっ!佐京はお前に何を言ったっ!」
あの宮司と同じ言葉を佐京が吐いた。
宮司は天音、佐京は暁に居る。
元々、佐京は永く天音に居た。
独身で遊び人の佐京と帝の尊を祀る社を守る宮司、普通ならば何らかの接点があるとは思えない二人だが、あの佐京と宮司なら全く無いとも言い切れない。
「か…。」
鈴が怯えた表情で俺を見る。
怒りに任せて鈴を怖がらせてしまう。
「すまない…、雪南と話がある。鈴は先に寝てろ…。」
ゆっくりと組み敷いた鈴から離れて掴んだ手首に軽く口付けをしてやる。
力任せに握られた鈴の手首が紅く染まってる。
「神路…。」
泣きそうな瞳で俺を見る。
「俺に泣き落としは通用しねえよ。」
冗談で誤魔化し、鈴の頬に口付けをして部屋を出る。
「神路っ!」
鈴の叫び声だけが聞こえて息が出来ないほど胸の奥に何かが詰まったような感覚を味わう。