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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
俺の中で鬼が汐元を切れと命ずる。
汐元は俺の手には負えない。
雪南のように上手く汐元の探りを躱す力が俺には無いと鬼がグルルと唸りながらせせら笑う。
「これを飲んで落ち着きなさい。」
汐元の女中が持って来たお茶を俺に飲ませようと雪南が湯呑みを俺の口元に押し付ける。
「すまなかった…。」
汐元を切れなかった俺なんか、この世で一番つまらない存在なのだと鬼がそっぽを向く。
「何がありました?」
雪南の問いに答える。
彩里との婚姻でおかしな宮司と会った事…。
悪夢が始まり、佐京が宮司と同じ事を鈴に言った事…。
そして、俺の中の鬼が目覚めた事…。
「前にもお話したはずです。貴方は鬼などには堕ちない。堕ちれば私が切り捨てると…。」
「だが…。」
「宮司の事も考え過ぎです。心の不安が鬼を呼び起こす。鈴の事はどうするおつもりですか?あの子は貴方を信じて、ここまでついて来た。今更、鈴の事は考えたくないとか言うおつもりか?」
弱音を吐く俺を雪南が叱責する。
「鈴は…、守る。」
「なら、お部屋へお帰りなさい。そして何も考えずにお休み下さい。考えるのは戦略指南役の私の仕事、黒崎様は鈴の傍に居ておやりなさい。」
俺を宥めた雪南が部屋まで送り届けてくれる。
冷静になると鈴と顔を合わせ辛いとか考える。
「雪南…、酒でも飲まないか?」
「飲みませんよ。何時だと思っているのですか?ここは汐元様の御屋敷…、これ以上の醜態を晒す前にさっさと寝なさい。」
冷たい声が返って来ると言い返す事すら出来なくなる。
鈴が眠っていてくれる事を願うが、勝手に俺が部屋を飛び出した以上、寝ててくれるはずがない。