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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
これで何度目だ?
鈴を怒らせた挙げ句に寂しがらせては顔を合わせ辛くなる。
馬鹿な俺を鈴は飽きずに迎え入れてくれているというのに、いつまでも進歩がない俺は同じ事を繰り返す。
部屋の戸を開き、中の様子を確認する。
暗闇の中で、先ず確認をするのは部屋の隅…。
金色に光る瞳が切ない視線を俺に向ける。
「ごめん…、鈴…、もう大丈夫だ。」
そう言って鈴に手を出せば、まだ恐る恐るだが小さな手が俺の手を握って来る。
「もう…、大丈夫なのか?」
俺の手の平に頬擦りする鈴が問う。
「ああ…。」
「なら、もう寝よう。」
何事もなかったように鈴が振る舞う。
強い女子だと思う。
とてもか弱く、貧弱なくせに心の強さを鈴は見せる。
「愛してる…。」
鈴を抱き締めて眠りに落ちる。
今宵は、あのおかしな宮司は出て来ない。
その代わりに鈴の鼻歌が聞こえる。
それは鈴の琴の音…。
俺を守る為の音色が暗闇を包み込む。
そして突然、光が射す。
「───っ!」
一瞬、また悪夢の始まりかと思ったが、単に目が覚めただけだ。
「鈴…。」
女の名を呼べば
「やっと起きたか?」
と鏡の前で紅を引く女が答える。
初夏に合う明るい若草色の着物を着た鈴が淡い紅を引き終えてから俺の方へと振り返る。
部屋へ射し込む陽の光に艶やかな髪を輝かせた鈴が微かな笑顔を浮かべてゆっくりと近付いて来る。
言葉が出ないほど美しいと思う。
華奢で小柄な分、迫力のある艶やかな美しさではないが殺風景な景色の中で一輪だけ頼りなげに咲く、たよやかな鈴蘭の花のように鈴が見える。