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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
「鈴…。」
俺に差し出された手の甲へ口付けをする。
そのまま手首へと口付けを繰り返せば鈴が眉を寄せて俺を見る。
「起きたなら顔を洗って朝食を済ませろ。」
いつもと変わらない拗ねた口調にそそられる。
「随分とおめかしをしてるな。飯よりも先に鈴を喰いたい。」
鈴の腰を引き寄せて首筋へと舌を這わせれば
「駄目じゃ、多江が帰って来た。」
と鈴が首を横へ振る。
「多江が?」
「夕べ、庄条には着いたらしいが汐元様の御屋敷に上がるには時間が遅すぎたからと街宿に泊まったのだそうだ。神路の家臣を宿に泊まらせたのは汐元家の恥となるとか汐元様が言い出し、今しがた汐元家の方が多江を宿まで迎えに行ってくれている。」
「わざわざ護衛の多江をか?」
「そうだ。しかも、鈴にも新しい着物や化粧品などを用意してくれて庄条の街で遊ぶお小遣いまで下さった。」
「あの爺ぃ…。」
とことん黒崎に恩を売ろうとしてる。
ここまで来れば、もはや押し売りだと思うとため息が出る。
「だから、神路も早く支度をしろ。」
「俺?」
「そう…、多江が着いたら庄条の街を見学する約束を果たして貰う。」
「あー…。」
面倒だと思うが、ここでそれを口にすれば夕べの二の舞だと言葉を汐元が用意した飯で無理矢理に喉の奥へ流し込む。
「なあ、神路…、夕べの事だが…。」
頬杖を付きながら朝食を掻き込む俺を眺める鈴が話し掛けて来る。
「夕べ?」
「佐京と宮司とか言っていた事じゃ。」
「ああ…、俺の気のせいかもしれないから鈴が気に病む必要はない。」
「佐京はともかく、宮司は何者なのだ?」
「俺もよくわからん。雪南に聞いた方が早いかもな。」
宮司の話は余りしたくない。