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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
口を噤む俺を鈴が訝しげに眺める。
こうやって、鈴は俺に言いたい事を飲み込んでは、我慢の限界が来ると爆発する。
結局、原因は俺なのだから鈴を責めたりは出来ない。
「何やら…、騒がしいな。」
俺から視線を逸らす鈴が廊下側を見る。
確かに汐元の屋敷内が騒がしくなっている。
「汐元家は商人の出入りが激しいからな。その騒ぎじゃないのか?」
戸を開き廊下を覗く鈴に並んで廊下を確認する。
騒ぎは女中部屋の方から聞こえて来る。
「止めろ!離せーっ!」
そんな叫び声が聞こえると同時に鈴が廊下へ飛び出す。
「神路、多江の声じゃ。」
打掛の裾を握る鈴が廊下を走り出す。
「多江?何故、多江が?」
汐元の女中部屋で何をしてるのだと鈴に問う。
鈴は答える事なく女中部屋の戸を開く。
「多江っ!」
鈴の声が響き
「鈴様ぁ…。」
と情けない多江の声がする。
「何事ですか?」
俺の背後から雪南が走り寄って来る。
「なあ、雪南…。」
「はい?」
「あれは…、多江か?」
「───…その様ですな。」
「やはり多江なのか…。」
鈴の足元にしがみつき、わんわんと泣き叫ぶ女子の姿は俺や雪南が知る多江ではない。
鈴と同じように女子用の小袖を着て、薄紫の打掛を着せられた多江は化粧まで施され、髪を結わずに下ろしてる。
「多江…、何があったのじゃ?」
泣き続ける多江の涙を拭いながら鈴が聞く。
「ゔぇ…汐元様から…、この庄条では武士の甲冑姿は商人が不安がるので困ると言われ…、着替えるようにと…。でも…、でも…、この姿はあんまりですぅぅぅっ!」
女子の姿を嫌う多江に女子の着物を着せた汐元の好意が耐えられないと多江が泣き喚く。