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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
このままでは不味いと判断した雪南が俺の背中を押す。
「汐元様がこの騒ぎに駆け付ける前に何とかして下さい。」
「何とかって…、俺がかっ!?」
「多江の主は貴方です。」
鈴にしがみついて泣き続ける多江の前まで雪南が俺をグイグイと押しやる。
「あー…、多江…、女子の姿もなかなか似合うぞ。」
慰めるつもりで吐いた言葉はあっさりと多江に切り捨てられる。
「嘘やお世辞は結構ですっ!多江は武士として生きると決めたのに、こんな姿は屈辱です。」
泣き崩れる多江を鈴が抱えながら、きつい視線をキッと俺の方へ向けて来る。
「神路は女子の気持ちがわからぬからな。」
鈴までもが俺を批難する。
「雪南…。」
こういう時こそ色男の出番だと俺は雪南の後ろに隠れる。
はぁ…。
雪南のため息が聞こえる。
「多江…。」
雪南が多江の前に跪く。
「蒲江様…。」
流石の多江も上司である雪南が跪けば顔を上げざるを得ない。
ホウと周囲に居た女中達の吐息が飛ぶ。
何故か雪南の周囲だけピンク色の光が射すように見える。
雪南の手が多江の頬の涙を拭えば、多江が大きく瞳を開く。
「お前は鈴様の護衛だ。時には男子禁制の場も存在する。そんな場では例え女子でも甲冑を着るなど無粋になる時も来るだろう。だから多江…。」
「はい…。」
「女子の姿にされたとしても、最後まで鈴様を守る意志を貫くのが武士の心得だと思うが良い。」
「はい…、蒲江様…。」
あっさりと多江が泣き止む。
俺には出来ぬ芸当だ。
ピンク色の空間を創り出し笑顔で多江を立たせた雪南の姿に物語に出て来る王子のように、女中や多江がうっとりとした視線を浴びせまくっている。