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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
汐元の屋敷へ戻り、俺の足を洗いに来た女中に
「すまないが、汐元様がお暇な時間を聞いてくれ。」
と頼み部屋で待つ。
一刻も経たぬうちに汐元が俺の部屋へ訪ねて来る。
「庄条の街はお気に召しませぬかったか?」
老人が複雑な表情で俺を見る。
「いえ、良い街であります。ですが俺は街をぶらついて遊ぶ行為が性に合いませぬ。」
武士として育てられた。
常に大河様に恥をかかせるなと言われ続けた。
欲しいものなど何も無い。
そんな俺が何でも手に入る街では疎外感しか感じない。
「貴方は変わりませぬな。」
汐元が義父のような目をする。
「変わらねばなりませぬか?」
義父に聞きたい事を汐元に聞く。
「いえ、貴方らしいと思います。それ故に私は黒崎の大殿様が羨ましい。」
「義父が?」
「彼は昔からそうでした。自分は何も望まないのに、何でも手に入れてしまう。」
「そうでしょうか…。」
「ええ、彼は妻を喪った。それでも良き息子を得た。そんな事を彼は望んでなかったのに、運命はそれを彼に与えた。」
「良き息子かどうか…。」
「良き息子ですよ。彼からの手紙は、常に貴方の手助けを求める内容ばかり…。」
細い瞳を更に細めて汐元が笑う。
「俺は…。」
義父の期待に応えられているのか?
それが知りたいと汐元と向き合う。
「俺がやってる事は夢物語でありましょうか?」
俺と雪南がやってる事を話す。
俺は義父に恥をかかせているだけかもしれん。
そう考えるだけで、この街から逃げ出したいと思ってしまう。
俺の話を聞く汐元の表情が驚きへと変わる。
「それは…、そんな事は…。」
とんでもない馬鹿しか考えなかった話だと言わんばかりに汐元が声を震わせる。