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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
「夢物語に全てを賭けて戦をしてる。そんな愚かな息子を義父は誇りに思うのでしょうか?」
俺の言葉に汐元が首を振る。
「夢物語かどうかは私には計り兼ねます。そんな事を考える人間は居なかったというのが正しいでしょう。ただ…。」
「ただ…。」
「神路殿がやろうとしている事は…、歴史をも覆しかねない。だからこそ、誰もが夢物語だと言うのです。」
「やはり歴史が語ってると汐元様も仰るのか…。」
「それほどまでに壮大過ぎる計画だと言ってるのです。」
そこまで言うと汐元が口を噤む。
歴史に逆らうな。
それが、この世界の根源だ。
「汐元様は帝の社に住まう宮司と面識が?」
俺に歴史を持ち出す汐元に問う。
「そりゃ、こう見えて、この地を治める領主ですし…。」
「領主は皆が面識を?」
「領主でなくとも、帝に仕える民なら誰でも会う機会がありましょう。神路殿も婚姻の儀でお会いになったのでは?」
「ああ、天音の社で…。」
「私は天音の社には行った事がありませぬが…、庄条にも白銀の麓に社があります故…。」
「天音の宮司と白銀の宮司は同じ人物ですか?」
「まさか…、全て別の宮司のはずです。彼らは…、生まれてから一度も社を出ない決まりに縛られているので…、少々、浮世離れしてるところがあるとは聞いておりますが…。」
汐元の話から、少々のレベルを超えた浮世離れを気にする俺が間違ってるのかと考え直す。
「何故、宮司の事を?」
黙り込んだ俺に今度は汐元が問う。
「宮司にも言われたのです。歴史に逆らうのは愚かだと…。」
「確かに神路殿がやろうとしてる事は歴史に名を残す偉業だとは思いますが…、本当に歴史に名が残るかどうかは100年も先にならねばわからない事…。宮司の言葉など充てにはなりますまい。」
穏やかに笑う汐元が立ち上がる。