この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
考え過ぎだと諭されただけで俺の中の蟠りは消えやしない。
「お忙しいところをわざわざありがとうございました。」
部屋を出る汐元に頭を下げる。
考え過ぎ…。
そう言われたところで昂ぶる気持ちを抑えられない。
『汐元を切れ…、あれはお前が進む路の邪魔になる。』
虎がニヤリと笑う。
『黙れ…。』
鬼の言うがままにはならぬと虎を無視する。
『切らねば、お前は何も手に入らぬ。』
執拗な鬼が甘い声を出す。
「黙れっ!」
そう叫んだ瞬間、小さな手が俺の手を握る。
暖かく小さな手…。
もう片方の手が俺の頬を撫でる。
「神路…。」
いつの間にか鈴が帰って来ている。
「鈴…、帰ったのか?」
「多栄がまだ疲れてると言う。だから、ケーキだけを食べて帰って来たのだ。」
「庄条で遊ぶ予定ではなかったのか?」
「神路が居なければ、楽しくない。」
細い腕が俺の首へ伸びる。
抱き上げて鈴の首に口付けをする。
「琴を弾きたいが…、邪魔になるか?」
俺の鼻に鼻を擦り寄せる仔猫が聞く。
「構わん。汐元様からも俺は考え過ぎだと言われたところだ。何も考えずに過ごす時間が必要らしい。」
苦笑いをして答えれば鈴が軽く俺の頬に唇を押し付ける。
「考え事はしなくて良いが鈴が琴はちゃんと聞いてよ。」
「はいはい…。」
「返事は一度じゃ。」
仔猫が俺の腕から飛び降りる。
鈴にまで気を遣わせていると思うだけで情けない気分になる。
俺は俺の思いで動く。
鬼の思惑には嵌らない。
俺は俺のやり方で鈴を守りたいと願う。
琴の前に座る鈴が緊張したかのように息を吸う。