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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑



「雅な一部の階級を持つ者の特権…。」


そんな話は初耳だ。


「しかし、雅な者が奏でる音など音楽とは言えない。暇潰しに鳴らすだけの音など雑音と変わりませぬ。」


辛口で汐元が特権者を批難する。


「いつしか、音楽は貧しい者が生きる術の一つとして使われ多くの民へと広まった。例えで言うなら、盲た者が三味線を弾き生きる為の糧を稼ぐという時代が来たのです。」

「そんな歴史が…。」

「そして命懸けで奏でるその音は芸術とまで言われた。つまり魂が込められた音楽に初めて価値が付いたのですよ。」

「それほどの価値が鈴の音にあると?」

「商人が付けた価値…、そして、ここは庄城の街。商人の街で鈴殿の音に如何程の値が付くのかと私は楽しみしています。」


鈴の音に価値…。

下賎な音だと言われる恥はかかずに済むが、その音には価値が無ければならぬと新たなプレッシャーを汐元が鈴に掛ける。


「折角の鈴殿の演奏…、酒と食事の用意をさせます故、広間の方へお越し下さい。」


一方的に言う汐元が女中に言い付けて鈴の琴を広間へ運ぶ。


「どうする?鈴…、無理ならば体調が悪いからと俺から汐元様に断りを入れてやる。」


俺には音楽の価値などわからぬ。

汐元が求める価値が如何程かの見当すら付かぬ。

このプレッシャーの中で鈴に無理をさせようとは思わない。

なのに…。


「姫さんなら弾けるだろ?閉じ込められて育った鳥は鳴き方すら忘れてしまう。だが、自由に飛び回る鳥は価値ある音を好きなだけ奏でる事が出来るはずだ。」


と耳をほじる佐京がいい加減な事を言いやがる。


「黙ってろ。佐京…、鈴が言うように由の暁へ送り返すぞ。」


俺が脅したところで佐京は肩を軽く竦めるだけで全く動じる気配を見せはしない。


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