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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣

部屋に戻れば鈴を叱る雪南の声がする。
「衣はちゃんと畳むものだ。言っとくが、その箱に入らぬ物は持って行けぬ。」
戦場に持って行ける物は限られる。
鈴専用の木箱が与えられ、そこに入らぬ物までは持って行く事は許されない。
そういった知識を雪南は鈴に与える。
与えてはいるのだが…。
「聞いてるのか!?お前はっ!」
最後は雪南の叫びだけが木霊する。
鈴は荷造りの手を止めて部屋の隅に踞る。
「鈴、自分で荷造りが出来ないなら置いてくぞ。」
俺がそう言えば鈴はイヤイヤと首を振る。
それでも雪南を睨み動かない。
「雪南も俺の荷造りが終わったなら台所の手配をして自分の荷造りをしろ。」
雪南をこの部屋から追い出す。
鈴には箱に詰める着物の畳み方からきちんと教える必要がある。
ちょっと手本を見せれば賢い鈴はすぐに出来るようになる子だ。
「後は何を持って行く?」
小物くらいなら鈴の箱にまだ入る。
「これ…。」
鈴が手にしたのは義父が鈴に読んでやった本…。
子供用の絵本…。
俺が昔、使ってたものだ。
「入れておけ、終わったら風呂に入って来い。陽が暮れぬうちに出立する。」
まともに風呂に入れるのは、これが最後になる。
鈴は大人しく俺の言葉に従う。
今回の戦はかなり金が掛かる。
鈴が消えてから俺は銭勘定だけを考える。
鈴が風呂から出る頃には黒炎から俺が頼んだ兵が整ったとの連絡が来た。
「鈴…。まだ湿ってるぞ。」
玄関に出て来た鈴は小姓の服の上に俺がやった生乾きの羽織を羽織ってる。
甲冑を付けない鈴の戦闘服は羽織らしい。
「西元に行くぞ。」
今回はかなり強行で西元に向かう。
状況が掴めない直愛だけがずっと不安そうな表情をしたままだった。

