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戦場に響く鈴の音
第36章 興奮
「どうした?鈴…、お前はあの難しい琴で、ちゃんと良い演奏が出来たではないか…。」
宥めてやるつもりで言ってやった言葉に反して鈴は爪を俺の肩へと食い込ませる。
「部屋へ…、帰る…。」
腹の底から振り絞った声がする。
「良いのか?佐京や茂吉は鈴の演奏をまだ期待してるぞ。」
まだ飲み足りないと盃を口元に寄せれば鈴の手が俺の手から盃を払い落とす。
「部屋へと言うてるのだ。」
怒りを含む声がして俺の首の付け根に痛みが走る。
荒ぶれる仔猫が噛み付いている。
「やれやれ…。」
機嫌の悪い仔猫に逆らえば痛い目を見るのは俺の方だ。
「雪南、今夜はお開きだ。明日は庄城を出る。そのつもりで支度をしておいてくれ。」
傍に控えていた雪南に言い付けると仔猫を抱えて広間を出る。
神国へ向かう予定は早まったが、人は揃ったし、汐元も満足させたから問題はない。
ただ、このまま庄城に留まれば仔猫が毛を逆立てて俺に噛み付いて来るからと逃げ出すだけだ。
自分の部屋へ戻り床へ鈴を下ろそうと試みるが鈴は俺の着物を握り締めて離れようとはしない。
紅潮した頬…。
潤んだ瞳…。
荒い息遣い…。
興奮してやがる。
「か…み…。」
震える手で自分の顔を覆い隠し、自分に対する驚きに怯える姿を鈴が晒す。
「どうした?」
いつも通りに鈴を膝に抱えれば、イヤイヤと鈴が首を振る。
「身体が…熱い…、これは…なんなのだ?」
自分が自分で失くなる感覚に戸惑いを見せる。
俺や雪南なら見慣れた姿だ。
だが、それは鈴には初めての感覚であり、その感覚を無理矢理に押さえ込もうとして自分の身体を抱き締めて踞る。