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戦場に響く鈴の音
第36章 興奮
これが無ければ神へ兵を送る事すら難しくなる。
だから帝は蘇との街道にだけトンネルを通した。
半日ほど山道を進み、一番高く聳える山の前で立ち止まる。
「神路っ!山に穴が空いてるっ!」
トンネルを初めて見た鈴が多栄と並んで怯えた顔をする。
「これがトンネル…、入る前に厠に行っておけ。昼食を食ってからトンネルを抜ける。」
トンネル内は冷える。
いや、標高が上がった分だけ夏でも雪が残った場所があり、山脈全体の気温はかなり低い。
初めての山脈を経験する鈴達に山脈での知識を雪南が与える。
「ここから先は、この様なトンネルを何ヶ所か抜ける事になる。下界に比べ空気が薄くなり頭痛などが起きる。少しでも体調に変化を感じたらすぐに知らせるのだ。」
知識を持たぬ茂吉や与一は雪南の言葉に頷き、寺子屋である程度の知識を得た経験がある鈴と多栄は荷馬車から羽織る為の上着を取り出して山脈の気候に備える。
この場で表情を変えないのは佐京だけだ。
「佐京は上着を用意しないのか?」
雪南の忠告を無視する佐京に鈴が問う。
「姫さんとは違い、俺はこの山脈を何度も越えてるからな。」
ニタリと余裕の笑みまで見せやがる。
大城主に付き添い、何度も神国へ佐京は行ってる。
だからこそ、義父は佐京を同伴させたのだ。
山には荷馬車を狙う山賊が居る。
ましてや女子連れだと狙われる率が一気に上がる。
佐京なら山脈の気温や空気の薄さなど気にも留めない。
この強さが狂いそうなほど妬ましい。
人間的に問題があっても佐京は自分の強さだけを武器にして信頼を勝ち取れる。
苛立つのをわかってて佐京は俺を煽るようにニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて俺の方を見る。