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戦場に響く鈴の音
第36章 興奮



俺の怒りなど、どうでも良いと佐京は頭から水を被り浴びた血を流し落とす。


「鬼の言葉を聞け…、そうすりゃ俺みたいに楽に生きられるぞ。」


佐京に刀を向ける事すら出来ない俺を馬鹿にしたように佐京が俺の肩を叩く。


「俺は鬼に堕ちたりはせぬ。」


それが鈴との約束だ。

そして堕ちるのなら雪南に切られるだけだとわかってる。


「だから夢しか見れないんだよ。坊っちゃん…。」


佐京の垂れ目が悲しげに俺を見る。

鬼に堕ちた者の深い悲しみが俺に伝わって来る。

この鬼を使いこなせなければ俺の歩む路は全てが夢で終わると言われてる気になる。


「佐京…。」

「そろそろ夜明けだ。出発の準備をした方がいい。この街道はもう安全だからな。」


これ以上は話す必要がないと佐京が俺に背を向ける。

今はまだ、俺を主として認める気がないのだと佐京から突き放されただけだった。

神国まで半日の距離となる頃は普通の山道を降るだけになる。


「神路…、あれは…なんだ!?」


馬の上で立ち上がろうとする鈴を抱え直して答えてやる。

山脈に囲まれた盆地に広がる巨大な街…。


「あれが神国だ。」

「でも…。」

「神国には他の村や街など無い。あるのは神国と名乗る街があるだけだ。」


神国は始まりの街…。

滅びかけた世界から逃げた人々が作り上げた世界…。

山脈に囲まれ、他の世界を拒絶した場所…。

だから街は国と同じだけ広がり、溢れる人口を調整する為に山脈の外側へ四国を作ったと言われてる。

その四国からの出入りすら厳しい山脈で人の流れを遮りながらも外側の四国を統治する力を秘めた巨大な始まりの国に鈴が言葉を失ったとしても不思議ではない。


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