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戦場に響く鈴の音
第36章 興奮
国土の半分が畑…。
その畔(あぜ)となる道をゆっくりと馬が抜ける。
「作物が無いのに畑なのか?」
まだ夏だというのに枯れた草しか生えぬ畑を鈴が訝しむ。
「作物は麦だからな。夏には刈って収穫を済ませ、神国大祭で豊穣を祝うのが習わしだ。」
「麦…。」
「その昔、この神国を開国をした民達が初めて植えた作物が麦だったというだけの事だ。」
少ない雪解けの水…。
海も無い。
白銀の山脈のせいで雨も少ないこの土地では麦くらいしか育たず、外界から逃げて来た人々の飢えは麦で凌ぐのが当たり前だった。
四国が出来た今は四国の恵みをその麦と交換し、四国を束ねる国として神国は栄えて来た。
その神国の建国が1000年…。
本来ならば貧しいはずで終わる神国が、今は一番豊かで人が溢れるくらいにまで発展していると言える。
その代わりに神国では人口が制限されている。
四国から入るにも通行許可が必要であり、神国に住むならば四国の大城主と天帝の許可がなければならない。
無闇に人口を溢れさせても神国は今の人口統制が精一杯…。
飢餓が出れば、その負担は全て四国に課せられ、戦乱を引き起こす原因にもなりかねない。
「麦畑…。」
小さく鈴が呟く。
「ああ…、もう少し早く来れば金色の草原が見れたのにな…。」
「鈴は…、見た事がある…。」
「麦は神だけの作物だぞ?」
麦については、取り引きを独占する為だと天帝は他国での麦の栽培を認めてない。
「でも…、見た事があるのだ。」
「つまり、母親と神国へ来たのか?」
「おっ母だけではなかったと思う…。」
「父親の記憶が?」
「いや…、全く覚えてない。」
何かを思い出したいと鈴が何度も頭を振る。