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戦場に響く鈴の音
第36章 興奮
普通の民の場合、商人でもなければ神国に来たりしない。
鈴の鮮明な記憶は貧しい村で病弱な母と二人だけで暮らしていたという部分だけのはず…。
ならば父親が商人で母親は妾だからと別に暮らしていた可能性などを考える。
麦畑を抜け神国に張り巡らされた城壁の前まで来れば、城門では大祭目当てに集まった商人が並んでる。
通行証の確認を受け、神国への一歩を踏み出せば、黙り込んでしまった鈴とは対象的に多栄や与一が騒ぎ出す。
「すげーっ!」
「これが神国…。」
そうなるのも不思議ではない。
四国と違い、神国は完全な異国を感じさせる国…。
中央にある御所から放射線状に大通りが伸び、円を描く小道が幾重にも御所を取り囲むように敷かれてる。
「馬に乗れるのは決まった大通りだけだから気を付けろ。」
道を通るだけでも何かと決まり事がある神国…。
迂闊にゴミなどを道に捨てれば天帝への不敬だと言われて捕縛されても文句は言えない。
そういった手順を雪南が淡々と語るが、肝心の鈴は心ここにあらずとぼんやりとした視線を神国へ向ける。
「申し訳ございません。自分は少しばかし用があるので、黒崎様達だけで宿へ向かって頂けますか?」
馬屋に馬を預ける時、雪南がそう言い出す。
「何処に行くつもりだ?」
神に雪南の知り合いが居るとは初耳だ。
「大した用件ではありません。鈴も疲れているでしょうから、黒崎様はゆっくりとして下さいませ。」
眉一つ動かさぬ雪南は涼しい顔で立ち去る。
「なぁ、鈴…。」
ぼんやりを続ける鈴の手を握る。
「なんだ?」
「雪南の隠し事…、気にならないか?」
明らかに何かを隠す雪南だと感じる。
雪南が穏やかなポーカーフェイスを徹底する時は、相手に自分の考えを悟らせない為の策略だ。