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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣
「出掛けて来る。直愛は悪いが鈴と留守を頼む。」
俺の指示に直愛が目を丸くする。
「私が鈴殿とですか?」
「朝には戻る。もしも戻らぬ時は兵と合流して先へ進め。俺はすぐに追い付く。」
「ここに来て神路殿まで単独行動ですか!?」
直愛は理解が出来ぬと頭を振る。
「案ずるな。ここは黒崎の領地だぞ。俺は義父の代わりに顔を出すところが山ほどある。」
「ですが…。」
「俺が不在中は直愛が大将だ。しっかりしてくれよ。」
「そんな…。」
ヘナヘナと直愛は腰が砕けたように座り込む。
こいつはもう少し、実戦って経験が必要らしい。
身軽な着流しに着替えを済ませ宿の部屋から出ようとする俺の前に小さな鈴が立ち塞がる。
「何処に行く?」
仔猫が目を釣り上げて俺を睨む。
その仔猫の頭を撫でてやる。
「聞いてたろ?明日の朝には戻る。」
「鈴も行く。」
「無理だ。」
「鈴は神路の小姓だ。」
「そこに子供は入れない。つまり小姓でもついて来る事が出来ない場所があるってわかるか?」
「なっ?」
常に主に付き添うべき小姓について行けない場所があるとは鈴には初耳だったらしい。
「はい、だから鈴はお留守番。一人前の漢になったら連れてってやるからな。」
「神路っ!」
鈴を避けて無理矢理に宿を出る。
馬で乗り付けるような場所じゃない。
「面倒臭ぇ…。」
そうボヤきながら、のんびりと街外れに向かう。
そこに着く頃には日が暮れる。
夜の方が都合が良い。
そこは夜にならねば入れない。
いや、この一画の全てがそうだろう。
柊の来栖(くずみ)遊郭…。
街道が交わる大都市には必ずある歓楽街。
花街とも呼ばれる、その場所は妓楼(ぎろう)が立ち並び檻のように格子が嵌まる見世(みせ)から女共が道を往く客に声を掛ける。