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戦場に響く鈴の音
第5章 一夜
本国、由からは川で切り離された西元だからこそ由は短期間で資源を掻き集める。
西元で得られる資源を喰い尽くした後は由に引き上げれば良い程度での理由で由は蘇へと攻め込む。
元々、西方の黒崎領地は実り豊かな領土である。
天音、天理(あまり)、天太(あまた)の三湖が有り、領地内の水源に困らない西方は米作りが盛んだ。
山や森も多く、材木にも不自由が無い。
山は鉱脈を持ち、農民は田植えの時期が済めば炭鉱での労働者へ変わる。
それだけ豊かな領土だと兵への志願者も他の領土に比べて遥かに数が上回る。
つまり黒崎の民は由から自分の家族を守る為だけに兵になる者が多い。
それらの知識を領主である義父から学んだ俺は西元に黒崎の兵を出来うるだけ残した。
天音には常駐する黒崎の兵がまだ1万は居る。
俺が御館様から借りる兵が2万で済んだのはその為だ。
目勘定で3万8千の兵…。
後は西元の負傷兵がどの程度かがわかれば計算が楽になる。
考え込む俺を茂吉が覗き込む。
「旦那?」
茂吉の酒臭い息に考えが散る。
「なんだ?」
「そろそろ行ってよろしいか?」
「さっさと行けよ。」
「人使いの荒い旦那だ。」
茂吉がブツブツと文句を垂れながら技術者の2人を引き連れて妓楼の座敷から出て行く。
問題は仕掛けるタイミング…。
戦とは攻めと守りの2種類しか無い。
川向こうに本陣を構えた笹川…。
間違いなく攻めて来る。
そのタイミングを考える。
場を先読みした方が戦に勝つ。
それが兵法の基本…。
考えろ…。
御館様から学んだ全てを思い出せ…。
「ちょいと、主様っ!」
キレた女の甲高い声がする。
俺に付いてた花魁の声だ。