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戦場に響く鈴の音
第5章 一夜
「あ?」
「あ…じゃないよ。いくら主様でも、ここが何処だかわかってんのかい?」
何処だと言われりゃ、来栖遊郭の大見世妓楼としか答えようがない。
「そもそも、ここは女を知らない子供が来る場所じゃないのさ。幾ら、領主様の息子だとしてもね。」
男勝りな花魁が偉そうに胸を張る。
子供ね…。
花魁の歳も俺とさほど変わらんと思う。
せいぜい、17~18ってところ…。
若さで遊郭一番手を張ってるに過ぎない。
「お前の名は?」
「絖花(こうか)。何か文句ある?」
絖(ぬめ)りのある花…。
いかにも花魁らしい名だ。
「文句はないが…、加濃の胡蝶(こちょう)太夫の事は知ってるか?」
花魁とは太夫という最高の位までくれば全国規模で知られる存在になる。
蘇国一の花魁、胡蝶太夫…。
あいつの写真集は初版が一日で完売という記録だったと聞いている。
「知ってて当たり前だろ。」
絖花が馬鹿にするなと口を尖らせる。
「あいつの今の亭主が俺だよ。」
「胡蝶姐さんの!?」
「絖花は胡蝶の禿だったのか?」
「新造前にしばらく付いてたのよ。」
絖花が懐かしげな表情をする。
別に亭主と言っても結婚をしてる訳じゃない。
元服前に御館様に連れて行かれた遊郭…。
『女を知らぬ漢は恥。』
そう言われて一週間ほど胡蝶と居た。
胡蝶と俺は似てる。
胡蝶は既に20歳だが、自分の名も親も覚えてない。
胡蝶の同情によるものか、境遇の似た者同士だからか女の身体の全てを胡蝶から学んだ。
その見返りに元服してから俺が胡蝶を買い上げた。
半分は元服祝いだと御館様が出してくれた。
お陰で契約は2年…。
この2年間は胡蝶は俺専用の花魁となる。
つまり遊郭という狭い世界だけで胡蝶は俺の女房となり俺は胡蝶の亭主となる。