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戦場に響く鈴の音
第5章 一夜
花魁の亭主になった俺が遊郭の何たるかを今更に言われても仕方がないのだと絖花に言う。
「あの胡蝶姐さんを2年も買い上げるなんて…。」
絖花が呆れた顔をする。
胡蝶は一晩でも商人の一ヶ月分の給与が飛ぶ。
「2年は必要だっただけだ。」
としか俺は答えようが無い。
2年間、俺の花魁になれば、黒炎などの宴でも必ず胡蝶が呼び出される。
それらの金子を集めれば胡蝶は2年で遊郭から足を洗う事が出来る。
国一番の花魁でも遊郭から足を洗うには10年は掛かると言われてる。
25を過ぎりゃ値は下がる一方だ。
決して安くはない花魁でも、足を洗う金子を妓楼に収めるには毎日のように男を取る必要がある。
妊娠や病気の不安を抱えて生きるには胡蝶は弱く綺麗過ぎると俺は感じた。
俺が買い上げれば胡蝶は無理に男を取らずに遊郭という世界ででも生きていける。
「やだな…、胡蝶姐さんが羨ましい。」
絖花が悲しげに俯く。
「悪いな。先に出会ったのが胡蝶だったからな。」
「私が先なら私を買い受けてくれた?」
苦笑いするしかない。
胡蝶のお陰で俺は現在、破産寸前の身…。
残念だが好みじゃない絖花まで俺が引き受ける訳にはいかない。
胡蝶が好みだとも思わない。
ただ、殆ど笑わない胡蝶の悲しい瞳を見てるのが辛いと思う。
「胡蝶姐さんよりも私の方が良いって言わせてやる。」
気高い花魁という姿を忘れて、絖花がはしたなく俺の着物の裾を広げて捲る。
「おいおい…。」
これじゃ、ただの田舎遊女と変わらない。
しかも、絖花は穴を開けそうな勢いで俺の股間に顔を寄せジーッと無言で凝視する。
「花魁のくせに見るのは初めてだとか言うつもりか?」
流石にこれだけジロジロと見られりゃ照れ臭い。
「だって…。」
初めて男と寝るような声を絖花が出す。
「何だよ?」
「これ…、挿いるの?」
絖花の言葉に項垂れる。
ムードも何も無い下品な花魁が本当に来栖一なのか?
俺が嫌な顔をしたからか絖花も気不味い顔に変わってく。