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戦場に響く鈴の音
第5章 一夜
その湯で浸した手縫いで絖花が俺の身体を洗う。
「俺は良いから自分の汚れを落とせ…。」
俺は宿屋に戻れば風呂に入れる。
絖花はそうはいかない。
「私なら大丈夫だってば…。」
気丈に笑う絖花…。
「少ないけど受け取れ…。」
着物の袖に無造作に入れてた金子を俺の身体を洗う為に冷たくなった絖花の手に握らせる。
「主様…、これは多過ぎる。」
絖花が目を剥いて俺に怒る。
花魁や遊女に直接渡す金子は妓楼にガメられる事がないから有り難く貰う物だと胡蝶は言っていた。
「俺が着物を汚したし、それでお前も風呂に入れる。さっきのお前付きの禿にも余分に飯が食わせてやれるだろ?」
「それでもお釣りが来るよ。」
「だったら遊郭から足を洗う資金にでもしろよ。」
絖花に笑って欲しかっただけだ。
寂しい目をされるくらいなら怒ってる方がマシだと俺が笑えば絖花もちゃんと笑ってくれる。
未だに笑わない鈴の事を思い出す。
夜がかなり更けた。
今更、宿屋に戻っても鈴は寝てるはず…。
いや、俺が居ないから起きて待ってるか?
まさか、眠れないからと言って一緒に留守番する直愛の床に入ってたりはしないよな!?
直愛と鈴が寄り添って寝てる姿を想像するだけで吐き気がする。
「何?主様、怖い顔してるよ。」
絖花が俺の顔を覗き込む。
「少し寝る。朝一番に起こせ…。」
たかが小姓如きで不機嫌になる自分の姿を他人に見られるとか恥だ。
眠い振りで布団に入れば紅い派手な寝間着に着替えた絖花が俺に寄り添って寝る。
疲れた絖花の方が俺よりも先に寝息を立てる。
花魁のくせに…。
客よりも先に寝るとかやってるうちは蘇国一になるとか夢にしかならない。