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戦場に響く鈴の音
第1章 謀叛

「雪南、武功に早り太極を見失うな。これ兵法の基本な。」
初陣の熱で血気に逸る軍師を戒めるのは俺の役目じゃない。
本来ならば血気に逸る俺を戒めるのが雪南の役目である。
「申し訳ございません。」
軍師という立場で有りながら兵法の何たるかを説かれた屈辱で雪南はいつもの自分を取り戻す。
こいつはそれで良い。
ただ真っ直ぐに俺に付き従う軍師として御館様から拝命を受けた男なのだから…。
「さて梁間は何処だ?」
本丸の入口に梁間を守る兵すら見当たらない。
見捨てられた城主。
「見て参ります。」
本丸の奥へと直愛が急ぎ踏み込んで行く。
今更、他の家臣に手柄を取られれば直愛の立場はますます地に落ちるだけだ。
俺は雪南を伴いゆっくりと本丸へ入り込む。
城の中央に本丸は位置する。
その上は天守閣くらいで大したものは無い。
城主が生活する場が本丸であり、天守閣なんぞ物置程度に使われるのが通常である。
但し、西元城は砦の役目がある為、本丸を囲う二の丸や三の丸の天守はちゃんと見張り台の役目を担う。
「黒崎様っ!」
先に本丸へ踏み込んだ直愛が声を荒らげる。
「居たか?」
刀を構えたまま微動だしない直愛の背中から声を掛ける。
「梁間は…、既に…。」
自害してる。
本来なら腹を裂く為の脇差しで首の動脈を掻き切った梁間の無様な姿が俺の視界に入る。
「自害かよ…。」
呆れて梁間に掛けるべき言葉が出て来ない。
私腹を肥やした見苦しい贅肉の固まりが、寝間着である白の襦袢をドス黒く染めて城主の寝所の片隅に横たわってる。
最期まで見苦しいだけの城主だ。
俺が梁間に感じる感情などその程度。
梁間如きでは御館様の心を煩わせる価値すらない。

